仕事は大事、それ以外も大切。
いい感じのバランスで……と思ってきた

 仕事について熱く語るなんて自分のキャラではない。
 就職活動のときも、特に“やりたい仕事”があったわけではなかった。
「これから先も、ないんじゃないかな?」と、K.M.はあっけらかんと述べた。

 やりたいことなどなくっても、学校を出たら働くのが当たり前。働く以上は真面目に取り組み、取り組んだ分だけは評価も得たい。
 でも……と、K.M.は考える。
 1日8時間働くとして、仕事は全生活の三分の一。人生の中で仕事はとても大事なものだが、他の三分の二だって大切だ。むろん時間配分だけで単純に割り切れるものではないが、仕事も、それ以外も、いい感じのバランスで、心地よく生きていけたら……。

「何をやりたいとか、夢がどうこう、ということではなくて。人並みのことを、その都度きちんとやっていく。そう思って進学もしたし、就活もそんな感じでした……。あっ、すみません、あんまり前向きなことが言えなくて」

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就活のしかたを間違えていた。
仕事の中身を誤解していた最初の就職

 K.M.は、新卒で入った前職を1年で辞めて、I&Lソフトウェアに転職してきた。いわゆる第二新卒である。
 前職は、生保の営業職。誰もが知る立派な会社。“ブラック”などと言うつもりはない。ただ、保険営業の仕事については、入社前の認識が甘かった。

「学生時代はクレープ屋さんでアルバイトをしていて、商品を手渡したときのお客さんの笑顔を見るのがとても嬉しかったんですよ」
 個人客相手の保険のセールスも、お客さんの笑顔を見ることができる仕事だと思っていたが、その前に大きな壁があることをちゃんとわかっていなかった。
 仕事研究の不足と勝手な思い込みは、自分のしくじり。誰を恨むわけにもいかない。会社も決して悪くない。ただ自分が向いていなかっただけ。
 仕事が生活のすべてではないから……と、心持ちの悪さを1年近くこらえたが、いつしか仕事のストレスを休日にまで引きずるようになってしまい、就活のやり直しを決意した。

 とはいえ、自分は何をやりたいのか、この時点でも見当がつかなかった。むしろ、やりたくないことだけが明確になった。セールスはこりごり。といって、事務系の仕事にも興味は湧かなかった。
「それなら、ソフトウェアのエンジニアはどうですか?」と提案してくれたのは、転職エージェントだった。
 プログラミングをやったことがなくても、基礎から教えてくれる会社はある。もともと理系出身なのだから「可能性は充分あるのでは?」と。
 食品化学を専攻した学生時代は、1ミリも考えなかった仕事だった。

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“プログラミング命”な同僚たちと
肩を並べている自分に驚いている

 転職エージェントには「理系だから大丈夫でしょ?」と言われたものの、大学ではコンピュータ関連の単位は取らなかったし、プログラミングは小学校の授業以来ご無沙汰だった。授業でやったそれは、正直、退屈だった。
 なのに勧めに従ってみようと思ったのは、それだけ切羽詰まっていたから。
「教育研修がしっかりしていそうな会社を10社選んでエントリーしました。返事が早く来た会社を、ダメモトで受けてみようと……I&Lソフトウェアは確か2番目でしたね」

 ゼロスタートで入社後、3年の間に携わってきたのは、WEBサイトのバックグラウンドプロセス開発、excelマクロVBAの制作、スマホアプリの画面改修、基幹システムのクラウド移行、物流企業のペーパーレス化……などなど。
 近頃はレビューでダメ出しされることも減ってきた。コーディングやテストばかりでなく、上流工程にあたる基本設計も担当している。

 子どものころからプログラミングが大好きで、夢を叶えるために入社したというタイプも少なくない会社の中で、そんな同僚たちと肩を並べて、機嫌よく働けている今の自分に、K.M.は自分自身でも驚いている。
「覚えることが多くて大変。仕事中は頭がウニることも度々です。でも、正しい知識を身につけてロジカルに考えていけば、必ず課題解決できるのが、この仕事のいいところ。だから、前の仕事と違ってノーストレス。今はいいバランスで毎日を送れています」

その時々にできるいちばんいいことを
当たり前にやり続ける

 学生時代にこの仕事を知っていたら、回り道をしないで済んだ。もっと真剣に就活していたら……とも思う。でも、後悔しても仕方ない。今はせっかく手に入れた好バランスを、維持していくことに最善を尽くすのみだ。

「I&L QUALITYは最上級だが、ゴールではない──これは、その時々にできるいちばんいいことを、当たり前にやり続ける、という意味だと思っています。
 これと同じことが、個人にもいえるんじゃないでしょうか?」
 3年前のK.M.より、今のK.M.はかなりいい感じ。
 来年、再来年、その先も……ずぅーといい感じになっていたい。

「まずはエンジニアとして一人前になりたい。公的資格も取りたいし、そろそろ昇級もしたいです。偉くなりたいわけじゃないけれど、実力が身についた証拠はほしいんですよ。チームに新人が入ってきたとき、ただ社歴が長いから教える、先輩風を吹かすというのじゃカッコがつかないと思うので」
 未経験で入ってくる人の手助けができるようになれたらいいと思っている。
 安心して入社してねと言ってあげたい。
 かつて自分がチャンスをもらったように。

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K.M.

2019年6月入社。実践女子大学生活科学部食生活化学科卒業。高校は理系コース。一時期は化粧品開発が面白そうで「農学部がいいかな」と思っていたが、いつしか興味を失い、食品関係の学科に進学。フードスペシャリストの資格は取ったが、食品系への就職は考えなかった。生保営業の仕事は「要するに、セールス特有の“ノリ”についていけなくて。“理詰め”でやる今の仕事に出会えて本当によかった」。でも、仕事は生活の一部。「家族と過ごしたり、一人旅に出たり、自室でぼぉーっとする時間はぜったい大切」。この信条は譲れない。