ワーク・ライフ・バランスは
男性にとっても大事なポイント。

 現在、サブリーダの職を務めるS.S.は、中途採用。大学新卒後、約3年間、誰も知る大手ファーストフードチェーン本社に正社員として勤務していた。
「大学時代を通じて、そのチェーンのフランチャイズ店でアルバイトをしていました。ある時期からはバイトマネジャーというポジションを任されるようになって、いざ就職活動となったとき、店長から『きみはフードビジネスに向いている、この際、チェーン本社を受けてみたら?』……と強く勧められましてね」
 このころのS.S.は、いわゆる堅い会社に勤めることが最優先事項。交際中だった今の妻と、卒業してきちんとした会社に就職できたら結婚しようと約束していたからだ。このチェーン本社ほどの有名企業に就職できたら、彼女の親御さんだって文句は言うまい。

 そしてS.S.は見事難関を突破して、店舗運営の職を得た。
「アルバイト時代の経験が活かせたし、お店でスタッフを動かすことも、店内で接客することも楽しかった。あれほどの会社だから、お給料もよかった。まさに適職だったと思っています」

 ところが事情が変わってきたのは、子どもが生まれた辺りから。
「ファーストフード業界は、シフト制勤務が当たり前。店の運営を預かる立場でも、それは変わりません。生活のリズムが不規則だから、心ならずも妻に“ワンオペ育児”を強いることになってしまって……」
 これはまずい。店の仕事は面白いなどと言っていられない。
 真剣にそう思うようになった。

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現状に甘んじるか、試行錯誤するか。
面接で企業姿勢に探りを入れて

「どんな業界でも仕事というのは大変なもので、プライベートや家族を犠牲にせざるを得ない部分はあるのだろうとは思います。転職さえすればすべてがハッピーなんてことはありえない。でも、わが家の場合は、不規則生活の弊害がはっきりしていた。だったら、それを潰さないと」

 平日日中の常識的な時間に働けて、週末は家族と過ごせる仕事を求める転職活動に踏み切ったわけだが、S.S.が選んだのはIT業界だった。
「コンピュータ関連のエンジニアは、子どものころからの憧れでした。有名企業のポストを捨てて再出発するのだから、できれば夢に近づきたいと思って」
 えっ? それ、ちょっと矛盾してませんか?
 IT業界では、しばしば過重労働が問題視される。ワーク・ライフ・バランスは社会の要請だが、目の前に迫った納期との戦いでは、残業も休日出勤も余儀なくされがち。残念ながら、それは現実といえる。
「だから転職活動では、いくつものIT企業に接触しました。私も毎日“9 to 5”で帰れることを求めていたわけではありません。
 でも、忙しいからと現状に甘んじるのか。それとも、何とかしなければと試行錯誤を重ねるのか。そういう企業姿勢みたいな部分が大切でしょう?」

 知名度とか待遇面といった外形的なところにはこだわらず、たくさん情報を集めて、何社も面接を受けた。I&Lソフトウェアもそのひとつ。
「内定が出た後も、入社承諾はちょっと待ってもらったりもして……」
 妻子もあるのだから慎重にならざるを得ない。それは当然。
 多くの応募者の中からS.S.を選んだI&Lソフトウェアは、S.S.に選ばれるよう返事を待った。求人企業と求職者は、互いに選び選ばれるイーブンな関係。それもまた、I&Lソフトウェアの企業姿勢といえる。

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配属後3か月で
お客様との折衝も任されるように

 小学4年生のとき、父からお下がりを譲り受けて以来、パソコンにはなじんできた。初歩的なゲームを作ったこともあったし、前職でも簡単なマクロを組む機会があった。とはいえ本格的なプログラミングは初めて。C言語に取り組む研修は大変だった。
 緻密で無駄を徹底的に排したコーディング。それを叩き込まれた3か月のカリキュラムは、パソコン画面と自分自身に向き合う日々だった。極端な言い方をすれば、会社で他人と話をするのは、レビューのときだけ。
「プログラマという仕事は、そういうものだと思っていました。ところが、現場配属を迎えてみると、チームの同僚とは作業中にも声をかけあうし、お客様との打ち合わせもあるし……で、コミュニケーションがけっこう大事な仕事なのだと気づいた。これはちょっと意外でしたね」

 現場に入って3か月も経つと、お客様との折衝も任されるようになっていた。
「口八丁手八丁という言い方がありますが、ファーストフード業界で接客はさんざんやってきたから、手八丁のほうはともかく、交渉事や業務調整みたいなことでは、わりと早くに戦力になれた感じで……」
 異業種への転職だったが、前職での経験が活きた。
 これは嬉しい誤算だった。

異例の早さでサブリーダに昇進。
でも、その上はまだまだ遠い

 入社2年足らずでサブリーダに昇進。社内では異例の早さといわれた。先輩上司たちは祝福すると同時に、「ひらのエンジニアからサブリーダに上がったときが大変なんだ」と声を揃えたものだった。

「ひたすら技術を磨くことにかけてきたタイプのエンジニアの中には、顧客折衝や後輩の指導の業務が増える昇進を、壁と感じる人が少なくないようです。だから大変というのでしょうが、私の場合は早くから折衝を任されてきたので、やっていることに肩書きが追いついたという感じ。さらに上をめざしたい」

 前職で培った人当たりのよさと折衝力でここまできた、という自覚はある。
 美しいコーディングには憧れるが、それが巧みな人は後輩にもいる。自分の勝負どころは、そこじゃない。
 一方、直属上長たるプロジェクトリーダとの実力差はひしひしと感じている。サブリーダは流れの中のある部分を回しているだけ。プロジェクト全体の計画づくり、予算に対する人材リソースの調整、契約の取り決め……etc.未体験ゾーンはたくさんある。
「10年後には、自分のチームの看板をあげていたい。そう思っています」
 そのころには、子どもも大きくなっている。
 父の仕事を誇りに思ってくれるはずだ。頑張れ父ちゃん!!

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S.S.

2018年12月入社。明治学院大学文学部フランス文学科卒業。大手ファーストフードチェーンを経て中途入社。「新人の私にお客様との打ち合わせを任せた上司は、私の適性を見抜いていた……ということになりますが、実は事前にお客様にも根回しして、了承を得ていたそうです。これは後々にお客様から伺ったこと」。現在メンバー1名を直接指導中。「私と行動を共にしているから、彼もコーディングより折衝が得意なエンジニアになるのかも。ローコード開発の時代だし、それも決して悪いことではないと思っています」