高機能・多機能なだけのソフトウェアは、
I&L QUALITYではない

 新入社員技術研修の最終局面で、およそ想像できる限りすべての機能をブチ込んだプログラムを書いて提出した。結果としてテスト項目が100か所以上に及んだが、この網羅性が、自分の売りだと胸を張った。
 ところがレビューの際、返ってきたのは「これは“数の暴力”だね」の一言。

「現実のソフトウェア開発では、要らない機能まで盛り込むようなことはしません。工数が増えればコスト高になるし、余計な機能を付けるとバグのリスクを抱え込むにもなるからです」
 独りよがりだった──と、T.N.は振り返る。

 それから10余年を経た現在のT.N.は、10人もの部下を率いるプロジェクトリーダ。入社年次でも年齢でも、そして積み上げてきた経験でも、開発現場では押しも押されもせぬベテラン社員に成長している。
「出来の良いプログラムには無駄がない。本当に必要とされる機能に絞り込まれていて、それでいて、少しいじれば将来の機能拡張にも対応できる。
 ただ闇雲に高機能・多機能なだけのソフトウェアは、I&L QUALITYではありません」

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コミュニケーション能力が不可欠。
ただし、多弁である必要はない

 機能に過不足がなく、コスト的にも効率的な“最上級”のソフトウェアをつくるには、エンジニアにはどんな能力が求められるのだろう。
「ユーザのニーズを正しく聞く力。これが第一。次に、こちらがやろうとしていることの必要性を理解してもらえる力。つまり、コミュニケーション能力ということになりますね。
 ただ、エンジニアを志す人の中には『他人と話すのが苦手』『できれば終日パソコンに向き合っていたい』というタイプが少なくないのも事実でしょう」

 I&Lソフトウェアにもそういう気質の人はいる。T.N.も、もとは研究職志望で、決して舌が滑らかなタイプではなかった。手間を承知で、要らない機能まで網羅したプログラムを書いたのも、質問したり説明したり……が苦痛、というか、面倒だったからだ。コミュニケーションに時間と労力を費やすより、黙って手を動かし続けるほうが気楽──これは“エンジニアあるある”である。

「研修は自分ひとりのことですが、実務はチームプレー。1から10まで単独でこなす作業もないわけではないけれど、その場合でも直属上長のレビューがあるし、その先にはお客様がいるわけです」
 1から10の工程があれば、その1つ1つで進捗報告があり、確認があり、相談事があり……という具合に進んでいく仕事だ。コミュニケーション・ゼロはありえない。
 ただし、多弁である必要はない。最低限の報告・連絡・相談さえ怠らなければ、細かいことは書いたコードが雄弁に語ってくれるのだから。

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「テーマ別会議」で
結論の出ない議題をとことん語り合う

「人づきあいが苦手で、会議では満足に発言できません」と、ある社内会議で真情を吐露した部下がいた。
「会議でそんなことを発言できるのですから、考えようによっては、彼にはそれなりのコミュニケーション能力が身についているといえるし、うちの職場の風通しの良さを示しているともいえるわけですが……。
 その発言をきっかけに『そういうタイプの人が発言しやすい会議体のあり方とは?』を議論してみようじゃないか──ということになりました」

 I&Lソフトウェアには、会社をよりよくしていくための仕組みのひとつとして「テーマ別会議」と称する分科会活動がある。職位3級以上の社員は全員いずれかの分科会に所属し、2級以下の若手も希望者が参加する。そのひとつでこの件が議題にかけられた。2時間半の会議予定が組まれたが、議論白熱して2時間45分かかった。
「これは結論を出すための会議ではなかった。『参加人数の多い会議では口下手な人や入社年次の低い人が発言しづらいので、出席者は5人までとする』などと多数決でルールを決めたところで、何の意味もありません。会議には、何人だろうと必要なメンバーが招集されなければならないわけですから。
 でも、皆で語り合って、『闊達なコミュニケーションを引き出しやすい人数は何人くらいなのか』のイメージを確認し合うことには、大きな意味があると思っています。I&Lソフトウェアは、こういうことには時間と労力を惜しまない会社です。
“会議の仕方”で白熱した2時間45分の会議を終えたときには、さすがにふらふら……自分の直属メンバーが提起したこととはいえ、アラフォーにはキツかった!」

“満足の尺度”は、いろいろ。
だからこそ、それを日々議論している

「I&L QUALITYとは、顧客にとっての“最上級”の満足を提供することで、そこに基準はなく、ゴールもない」とされている。「10個のチェックリストがあって、そのうちの8個に○がつけば合格」ということではないし、“顧客満足”というのも、本当のところはわからない。同じお客様の主担当者Aさんが「大満足です」と言ってくださったとしても、副担当者Bさんには実は小さな不満があって、無視できるレベルだから黙っているだけかもしれない……。

「どこまでやればI&L QUALITYなのか。それはチーム内でも常に議論となるところです。毎日それを語り合っているといっても過言ではありません。リーダの私と、若手でいちばん工数を抱え、Bさんのご不満も直接聞いているCくんの見解が異なっている……ということも可能性としてはあるでしょう。
 責任者としての職権と10数年の経験に裏打ちされた弁舌で、私がCくんを“論破”するのは簡単かもしれません。でも、それをやってしまったら、Cくんは意見を述べなくなるだろうし、お客様の“ホンネ”に蓋をすることになりかねない。そもそも“満足”は抽象概念。その尺度はいろいろあります」

 だからこそ、コミュニケーションが大事。
「お客様ともチームメンバーとも、日々語り合うことで、何がその時点でのベストなのかを見極める。それがプロジェクトリーダの仕事です」

 T.N.は、コミュニケーションを厭った新入社員のころから、そういう先輩リーダたちの仕事ぶりを目の当たりにしてきた。
「議論を尽くす社内風土は、先輩方からの蓄積。その大切な贈り物を、後輩たちにもつなげていきたいと思っています」

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T.N.

2008年4月入社。東京工科大学工学部情報工学科卒業。研究職をめざし大学院に進んだが、結婚することになり路線変更。修士課程を中途でやめてI&Lソフトウェアに入社。研修明けから1年ほどは各種のプロジェクトを短期間で異動。多様なジャンルの開発を経験できたことは貴重だった。生保のプロジェクトに5年在籍した後、2014年サブリーダに昇進。このポジションでは生保業界に加え、教育機関のプロジェクトも経験。2018年1月、プロジェクトリーダに昇進。当初は部下7名の体制だったが、3年間の契約更新を獲得し、メンバーも10名に拡充。「気がつけば、開発現場をたばねる立場としては、社内でも最年長クラスになっていました。月日が経つのは、あっという間です」