同業他社がつくったシステムの
サブシステムをつくる仕事

 仕事は取ったり取られたり。一度お仕事をいただけたからといって、そのまま次回も……とは限らない。それはビジネスのシビアな現実。多くの同業他社がいる中、プロジェクトを受注し、その後もお客様と継続的な関係を構築することもビジネスの醍醐味でもある。
 T.A.はそんな現場に急遽投入された。入社2年目の終わりのこと。

「他社がつくって運用・保守を続けているシステムに、機能を追加するサブシステム開発の案件でした。エンドユーザであるA社は以前からのお客様だが、今回はプライムベンダー(元請け)であるB社経由で開発を受注した。
 A社の別案件に携わったことのある先輩エンジニアが主担当に選ばれ、T.A.はその下につくことになった。

*

開発当事者にも回答不能な
ソースコードを1行ずつ読み解いて

 それまでの1年間、順風満帆なプロジェクトに配属され、穏やかな新入社員生活を送っていたT.A.は、2つ目の配属先で修羅場に立つことになった。
「その表現は大げさだと思いますけど……でも、新規案件を先輩とふたりだけで立ち上げるのは、めちゃくちゃ大変でした」

 この案件の面倒なところは、他社がつくったシステムのサブシステム開発である点だ。元のシステムとシームレスにデータ連携できなければならないし、ユーザインターフェースも元のシステムと変わらないのが望ましい。そのためには、T.A.たちが元のシステムの構造を完全に把握しなければならない。

 元のシステムは、部分的に“オフショア開発”が行われており、その部分を担当したのは海外の下請け企業。当初の仕様書とシステムの実際に食い違いが生じている疑いが濃厚だったし、データの修正履歴も残っていなかった。

「記録が残っていないなんて、I&Lソフトウェアでは絶対にありえないこと。I&L QUALITYでまともに運用されている現場しか知らなかった私は、呆然としました。でも、先輩は『……解析するぞ』と一言」
 プログラムの中身を開けて、ソースコードを1行ずつ追っていき、システムの細部構造を読み解いていった。

*

クイックレスポンスで信頼をつなぐ。
コーディングより時間をかけて

 この仕事の立ち上がりに際してT.A.たちが心を砕いたのは、A社、B社側の担当者たちとの良質な関係づくりだった。
「といって、仲良くなるために飲みに行きましょう……ということではありません。そんなことは、いまどき誰も望まない。コロナ禍でリモート勤務が続いている折ですから、なおさらです」

 A社の担当者は“業者まかせ”にはしないタイプと見受けられた。こちらが提案したことに対して的を射た疑問をぶつけてくるし、「こうしたい」というリクエストも明確だった。
 ほしい情報がすぐに出てこないとか、進捗状況がわかりにくいとか……。
 万一対応を誤れば、せっかくの新規案件が、次につながらなくなる。
 その逆に、この手強いキーパーソンの高評価を得ることができれば、仕事はやりやすくなるし、新たなビジネスチャンスも生まれるだろう。

「コミュニケーションのもたつきで信頼関係を損なうことがないよう、とにかくクイックレスポンスに努めました。その場で答えられない問い合わせもあるわけですが、絶対にうやむやにせず、回答期限をお約束するようにして。お客様とのやりとりに使った時間は、コーディングの作業よりはるかに多かった」
 丁寧で誠実な対応の積み重ね。それ以外に、関係強化の方法はない。
 楽しくやるのは、システム完成時の祝杯で充分だ。

ふたりだけのプロジェクトが発展。
いつの間にか重量級チームに

 このサブシステム開発の案件は少しずつ規模を拡げていき、立ち上がりから1年半が経過した現在、スタート時点よりかなり大きくなっている。エンジニアはさらに2名投入され、総責任者として上級職のプロジェクトリーダが着任。今や看板プロジェクトのひとつになりつつある。
「いつの間にかベテランぞろいの重量級チームになっちゃって……入社3年目なのに後輩がいない。それはちょっと切ないかな?」

 むろん、新規プロジェクト開拓を担ったT.A.の功績は、決してないがしろにされていない。
「今もお客様との折衝窓口は、自分に任されています。それはちょっぴり誇らしい」

 自分が立ち上げに関わったプロジェクト。そこで見事にお客様の信頼を勝ち取り、応援に入ったベテランたちにも鍛えられて……。
 後輩が配属されてくるころには、T.A.はエンジニアとして、ひと回りもふた回りも大きくなっているはずだ。

*
T.A.

2019年4月入社。東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命化学専攻修了。幼いころからの生き物好きが高じて修士課程まで進んだが、研究生として通った国立感染研で「“好き”と“仕事”は違う」と痛感。「仕事=経済活動の根本とは何か」と思いを巡らせ、「お金だ」と気づき銀行に就職。法人融資の審査係として1年半。その経験を通じて「社会の役に立っているのは“融資したお金”であって、“そのお金を融資した私”ではない」と思うに至り転職。「今の世の中、ソフトウェアは必需品。そういうものを自分の手でつくる仕事なら、お役に立てたと実感できるはず……現実は、まだまだ全然なんですけどね」